経済的成功者の話題が多く報じられる中で、リストラやニート、所得格差の顕在化、企業倒産や自殺者の増加といった話題も多く報じられています。果たして今の日本に何がおきているんでしょうか。
本書は、学習院大学経済学部の岩田教授による「デフレに見る日本経済の今」の考察です。
現在の日本経済はモノ余りでおカネが不足している「デフレ経済」であり、デフレ(デフレーション)とは、物価がある一定期間に渡って低下することを差します。この状態は企業においては賃金へ振り向けるおカネも少なくなり雇用調整に拍車がかかる。社会にはモノをつくる能力が十分あるのに、家計においては、所得が少ないためにあふれんばかりに存在しているモノを買えないという状態になってしまいます。
この「豊富の中の貧困」という、現在の日本経済に酷似した状態が1930年代のアメリカ大恐慌時代にありました。社会はモノを作る能力を高めるだけでは、貧困や失業問題を解決できないのです。
デフレの対義語にインフレがありますが、著者によればインフレ、デフレどちらが良い悪いの2元論ではないそうです。
物価が上がっても所得が増えれば暮らしに良い影響が出るし、物価が下がっても所得が減り、あるいは失業により所得が失われれば暮らしていけなくなる。物価が経済に与えているグロスの影響を知らなければならない、というのがポイントなんですね。
どうすればデフレ経済から脱却できるんでしょうか。そのロードマップは、市中におカネを多く流通させ、「ゆるやかなインフレ」を実現することだそうです。
・過去の歴史に習う
1930年代の昭和恐慌を克服した高橋是清大蔵大臣によるリフレ(物価をデフレ以前の水準に戻す)政策という歴史上の経験に習い、財政・金融政策を行うことによりゆるやかなインフレへ誘導することが必要。
・諸外国の政策に習う
90年代以降、3~4%程度の成長を実現しているアメリカ、イギリス、オーストラリアなどの国を例示し、日本においても長期的に2~3%程度のインフレ政策の実施が必要。
これらの実施により個人消費の喚起や金融・不動産資産の購入、投資が活発になると国の税収は自然増になり安易な増税や国債発行によらずとも健全な国家経済の運営が行える、ということです。
94年末に370兆円だった国と地方の借金は、99年度末に600兆円にまで達しています。
おカネが動かないデフレ下では構造改革、年金・医療問題の解決といった積極策に踏み込めないそうですが、安易な増税でしのぐのは勘弁して欲しいですからね。
私たち個人も「どれだけ消費するのか」「どれだけ貯蓄するのか」「貯蓄資産をどのように配分するのか」といったおカネの使い途を考えます。家計におけるマネープランにも経済活動の源泉があるんです。けっして他人事ではありません。
本書は、経済活動としての地価や株価高騰の発生システムを簡潔に説明しているので、「あの時」何が起きていたのかが明瞭に分かります。
「バブルのあの時とその後」政府、日銀の政策は妥当だったか、そして我々市民は何を知り、何をすべきか。
経済活動全体に渡ってポイントごとにまとめられており、経済の入門書としても役立つ1冊です。