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2005 .05 .29

『なぜ、その子供は腕のない絵を描いたか』藤原 智美・著

ドメスティックバイオレンス、児童虐待、あるいは虐待どころが親が子を殺してしまう…そんな殺伐としたニュースが報じられる回数が増えてきたと思います。反面、不良だった元生徒が教師になり荒廃した高校を再建していくドラマ「ヤン
キー先生母校に帰る」が人気を呼んだり……

皇太子のおすすめで子育て本が売れる反面、減らない児童虐待のニュースを見るたびに「今の子供と親」がどういう状況にあるかを知りたくて手にとった本です。

『なぜ、その子供は腕のない絵を描いたか』。著者は芥川賞を92年に受賞した後、
ノンフィクション作家として家族、子育て、教育といった分野で執筆している藤原
智美さんです。


本書の前段で著者が取材に訪れたのは、まじめで教育熱心な親が有名小学校の入学試験対策のため訪れる兵庫県西宮市の塾。
親が同席の元、マンツーマンで教育を受けるこの塾を取材で訪れた著者が見たのは、子供たちが描いた「両腕がない人物の絵」「顔のパーツの一部がない絵」「積み木を組み合わせたような人物の絵や風景」でした。

「言葉を聞き取れない」「話せない」「数が数えられない」という子供がここ2~3年で増えてきているという現象が起きているといいます。別な事例では、小学生を集めた絵画教室では、「マニュアルとおりに描く」けれど、「根気がない」「面倒くさがる」子供が増えてきているとも。

著者はどこにこういった現象の原因があるかを、アメリカと日本の子育て・教育法を対比したり、高度成長時代とそれ以降、特にバブル期以降の子育て方法の変化などを取材し、スキンシップの増減、子供同士の交流の希薄化、自然に親しむ遊びからテレビゲームへの変化、少子化と夫婦共働き世帯の増加による過保護あるいはカギッコ化の影響などを様々な調査を元に考察しています。

この本だけでは、取り上げている現象がはたして全国に及ぶものなのか、都会や地方で差があるのかは分かりません。研究事例集というわけではないので、若干著者の主観でリードしているかな、という面もあります。しかし、この本の表紙に掲載されている「腕のない子供の絵」は事実としてあります。こんな絵を描く子供がいることを正直知りませんでした。

子供には夢を持って欲しいですし、色んなことにチャレンジして欲しい。子供なりにできることを子供のうちにちゃんと経験して欲しい。

実際これは仕事に追われる大人が望んでいる姿かも知れません。自分が叶えられなかったことを子供に叶えさせようと。でもそんな大人が自分の姿を見つめなおす意味でも読めるのではないか……。そんな思いで読了しました。

気になる話題なのでもう少し他の本を読むなり、追いかけてみたい話題ですね。

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