『合意術』久恒 啓一・著
著者の久恒さんは、日本航空の管理部門などを経て、97年に宮城大学の教授に就任。現在事業構想学部の教授として教鞭を取る傍ら、企業や行政のアドバイザーとしても活躍しています。図解思考術を提唱し、『図で考える人は仕事ができる』など多くの著作を持つ久恒啓一さんが「合意術」という新たなコンセプトを打ち出しました。
一見、これまでの「図で考える」方法論とは違うように見えますが、果たしてその内容は。
一見、これまでの「図で考える」方法論とは違うように見えますが、果たしてその内容は。
久恒 啓一
日本経済新聞社 (2005.7)
通常24時間以内に発送します。
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企業活動、行政と住民の関わり、友人関係……。人が関わるあわゆる局面において「コミュニケーション」が存在し、そこに「合意形成」のプロセスが存在します。
「合意」とは、それを得るのが目的ではなく、問題解決に至る過程で出来てくるものであり、世の中の「仕事」とは、問題を解決することに他なりません。
本書の骨子は、この「問題解決」のための重要なプロセスとしての「合意」に着目し、久恒さんの得意とする「図解の手法」を掛け合わせることで、誰の目から見ても明らかで、納得できる「情報の視覚化」による「問題解決力」、「コミュニケーション力」の手法を解説しています。
自分の立場という「個の利害」ばかりで物事を捉えるのではなく、「全体の和」を踏まえなければ「よい合意」は得られない。そうでなければどこで妥協するか、という腹の探り合いになる。相手を「説得」するのではなく、お互いが「納得」することに問題解決の糸口はある、と久恒さんは言います。
そう、合意形成の方法論は問題解決の方法論。「合意が取れる」ことは「問題解決力がある」ということなんですね。
本書では、「よい合意形成」に必要な手段として「図解」と「定性情報」を提示しています。
数値化可能な情報を「定量情報」とし、数値化が困難だが、改善を求めるニーズが隠されている「生の情報」を「定性情報」と定義しています。
日本航空でのサービス改善や、宮城県の行政改革に携わったエピソード、裁判官を相手に行った講演での反応など、著者の豊かな経験で得られた多くのエピソードが盛り込まれています。これらの問題解決のために「定性情報」をいかに活用するかが一連のプロセスの中で重要なポイントになります。その底流にあるのは常に「誰のための論議か」という視点。
後段でデパートや自動車販売店での接客例として挙げられているエピソードはとても具体的で分かりやすいものになっています。
さらに注意すべき点として、よい合意を得るためのポイントは「理解・疑問・批判」を意識し議論すること。そうでないと何を論点にしているか分からない迷宮のような議論に陥ってしまう、と述べています。
周囲の情報に振り回されたり、自分たちの立場にのみ固執したりすれば、「合意」という、お互いが分かり合える機会が失われてしまう……。確かにそうですね。
また、↓こういった指摘も。
勉強して膨大な知識を頭に詰め込んではいるものの、自分の足元の問題さえ説くことができない。これは頭の中にあるものが借りものだからです。行政もビジネスも借りものだらけ。悪い言い方をすれば、まねとパクリです。それがいまの日本の閉塞状況を生み出しているのです。久恒さんはこれを「勉強病」と言います。
(P170)
本書の中で久恒さんは、「数字至上主義」の経営者像についてあえて苦言を呈しています。数字は重要だが一面でしかなく、コミュニケーション力、問題解決力、そしてなによりも人柄が重要である、と。
なかなかこういったバランスが取れた人間に出会ったことがないので、この部分や「勉強病」の指摘には激しく同意です。
冒頭に記載されていることですが、さまざまな分野で理論構築の先端を行くアメリカにも、4,000年の歴史を持つ中国にも「合意」に関する確固たる方法論はない。また、アメリカにはマインドマップの技術はあっても、図解の技術はないんだそうです。
「合意」と「図解」は日本独自、しかも世界に通用するコミュニケーション術ということなので、これは習得しておいて損はないですね。
「問題解決とコミュニケーション」を常に意識し、「相手を説得するのではなく、お互いに納得できる」ことこそが「よい合意」を得られる最善の方法。
我々の社会そのものがコミュニケーションで成り立っていることからすれば、「よい合意」に至るこれらの手法は、社会のあらゆる面で活かせる、ということです。
・疑問を抱きつつも、いつも長い会議で結局なあなあの結論を出している
・分かっていつつも、できないことは先送り
こういったことに辟易してる人や、合意は問題解決とコミュニケーションなんだ、という点に「ハッ!」とした人には、ぜひ読んでいただきたい1冊です。